はじめに
近年、企業を狙ったサイバー攻撃はますます高度化しており、その中でも大きな脅威となっているのが「サプライチェーン攻撃」です。
大企業だけでなく、取引先や委託先、中小企業を経由して侵入を試みるケースが増加しており、企業規模を問わずセキュリティ対策の強化が求められています。
こうした背景から注目されているのが、経済産業省が推進する**「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS)」**です。
その中で、意外と見落とされがちなのがWi-Fi(無線LAN)環境のセキュリティです。社内ネットワークへ接続する入口となるWi-Fiは、設定や運用を誤るとサイバー攻撃の侵入口になる可能性があります。
本記事では、SCS対応の観点から、企業が見直すべきWi-Fiセキュリティ対策について解説します。
サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS)とは?
SCSとは、サプライチェーン全体のセキュリティレベル向上を目的とした評価制度です。
従来、多くの企業では自社単体のセキュリティ対策に重点が置かれていました。しかし近年では、大企業が堅牢な防御を構築する一方で、比較的対策が不十分な関連企業や委託先が攻撃対象となるケースが増えています。
つまり、「取引先の弱点」が自社のリスクにつながる時代です。
SCSでは、次のような項目が重視されています。
- ネットワーク管理
- アクセス制御
- 資産管理
- アカウント管理
- インシデント対応
- 委託先管理
- セキュリティ教育
これらの項目を適切に運用するためには、社内ネットワークへ接続する入口であるWi-Fi環境も重要なセキュリティ対策の一つです。 無線LANの設定や運用が不十分であれば、ネットワーク全体のセキュリティレベルに影響を与える可能性があります。
なぜWi-Fiが狙われるのか?
Wi-Fiは利便性が高い一方、有線LANと比べて適切な設定や管理が求められるネットワークです。
特に次のような環境では、多くの端末がWi-Fi経由でネットワークへ接続しています。
- 工場
- 倉庫
- 店舗
- 建設現場
- サテライトオフィス
- テレワーク環境
近年はIoT機器や無線端末の増加により、Wi-Fi経由で社内システムへアクセスするケースが一般的になっています。
もしWi-Fiの設定が不十分であれば、
- 不正侵入
- 通信の盗聴
- マルウェア感染
- ランサムウェアの拡散
- 社内ネットワークへの横展開
- 情報漏えい
といったリスクにつながる可能性があります。
サプライチェーン攻撃では、「最も侵入しやすい企業」が狙われる傾向があります。
そのため、「うちは中小企業だから狙われない」という考えは危険です。
SCS対応で重要になるWi-Fiセキュリティ対策
1. WPA3への対応
現在でも古い暗号化方式(WEP・WPA)を利用している環境がありますが、これらは既に脆弱性が知られています。
Wi-Fiの暗号化は最低でもWPA2、可能であればWPA3への対応を検討しましょう。
WPA3では、
- 辞書攻撃への耐性向上
- 通信暗号化の強化
- 個別暗号化
- 公共Wi-Fi利用時の安全性向上
などの強化が行われています。
古いアクセスポイントを利用している場合は、機器の更新も検討しましょう。
2. SSIDの分離
社内Wi-Fiを1つだけで運用している企業は少なくありません。
しかし、次のような機器を同じネットワークで運用することはリスクにつながります。
- 社員PC
- 来客用Wi-Fi
- IoT機器
- プリンター
- 防犯カメラ
用途ごとにSSIDを分離することで、万が一侵入があった場合でも被害の拡大を抑えることができます。
例えば、
| SSID | 用途 |
|---|---|
| 社員用 | 社内システムへの接続 |
| ゲスト用 | インターネット利用のみ |
| IoT用 | 防犯カメラ・プリンターなど |
| 管理者用 | ネットワーク機器の管理 |
このように用途ごとにネットワークを分けることが重要です。
3. VLANによるアクセス制御
SSIDの分離とあわせて重要なのが**VLAN(仮想LAN)**です。
VLANを利用することで、同じネットワーク機器を使用していても、通信を論理的に分離できます。
例えば、
| ネットワーク | 接続機器 | アクセス範囲 |
|---|---|---|
| 社員用 | PC・社用スマートフォン | 社内システムへアクセス可能 |
| ゲスト用 | 来客端末 | インターネットのみ |
| IoT用 | 防犯カメラ・プリンター | 必要最小限の通信のみ |
| 管理者用 | 管理PC | ネットワーク機器の管理のみ |
このようにアクセス範囲を制限することで、万が一1つのネットワークが侵害されても、他のネットワークへの影響を抑えることができます。
SCSでも「必要最小限のアクセス権限」の考え方が重視されており、VLAN設計は有効な対策の一つです。
よくある危険なWi-Fi運用
共通パスワードを長年使い続けている
退職者や外部業者がパスワードを把握している可能性があり、不正利用のリスクがあります。
家庭用Wi-Fiルーターを利用している
法人利用を想定していない機器では、
- 管理機能が限定的
- ログ取得が難しい
- セキュリティ更新が終了している
といった課題があります。
ファームウェアを更新していない
Wi-Fi機器にも脆弱性は定期的に発見されます。
更新を怠ると、既知の脆弱性を悪用されるリスクが高まります。
IoT機器を社内ネットワークへそのまま接続している
IoT機器はセキュリティ対策が十分でない場合もあり、攻撃の入口になる可能性があります。
SCS時代に求められるWi-Fi運用
これからのWi-Fiは、単なる通信設備ではなく企業を守るセキュリティインフラとして管理することが重要です。
そのためには、
- 接続端末の管理
- アクセスログの取得
- 定期的な設定確認
- 不正端末の検知
- ゼロトラストを意識したアクセス制御
- 多要素認証(MFA)
- クラウド管理
などを組み合わせた運用が求められます。
特に複数拠点を持つ企業では、クラウド管理に対応した法人向けWi-Fiアクセスポイントを導入することで、設定変更やファームウェア更新、接続端末の管理を一元化でき、運用負荷の軽減とセキュリティ強化の両立が期待できます。
まとめ
SCS対応では、企業単体ではなく「サプライチェーン全体」でのセキュリティ対策が求められています。
その中でWi-Fiは、日常的に利用される一方で、見落とされやすい重要なポイントです。
- 古い暗号化方式の見直し
- SSID・VLANの分離
- IoT機器の適切な管理
- ファームウェアの更新
- アクセス制御の徹底
こうした基本対策を積み重ねることで、サプライチェーン攻撃のリスク低減につながります。
Wi-FiセキュリティはSCS対応に必要な対策の一つですが、それだけですべての要件を満たせるわけではありません。ネットワーク機器やアカウント管理、エンドポイント対策、社員教育などと組み合わせ、多層的なセキュリティ対策を進めることが重要です。
「便利だから使うWi-Fi」ではなく、**「企業を守るために管理するWi-Fi」**へ。
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